昨年の夏、想像もしていなかった出来事がありました。
シチリアはモディカから私たちが輸入している有機チョコレート 「イル・モディカーノ」の創業者のアルベルトが 高速道路で事故に巻き込まれ、亡くなったのです。 7月には電話で秋からの展開の打ち合わせをして、 「コロナに負けず頑張ろうね」と お互いを励ましあったばかりでした。 9月になってWhats App(日本のラインのようなものです)を 何度送っても、返答がこず「彼らしくないないな?」と おかしく感じ、会社に電話して悲報を知りました。 頭が真っ白になる、というのはこういうことか、、、。 あの笑顔が、あの声がもうこの世にない、ということが ただただ信じられず、しばらく呆然としていました。 「エヴリンは大丈夫?」 しばらくして会社に電話し 彼よりずいぶんと若い奥さんのことを聞くと、 1ヶ月経った今、彼女も、会社のスタッフも 現実をみないと、と 少しずつ前を向いて動きた始めた、とのこと。 何もできない、ということを 痛感した経験でした。 その後エヴリンと直接話したところ、 想像以上にしっかりしていた彼女は 生後6ヶ月の娘のためにも、アルベルトが遺した 「イル・モディカーノ」を存続させていきたい、 そう決断した、と。 電話先のエブリンは、 私が知る少し幼い感じの彼女とは 別人のようにしっかりしていて、 こちらの方がその立派さに涙してしまったほど。 1週間泣き続けたけれど、 いまはもう前に進むしかないのよね、と。 「イル・モディカーノ」のチョコレートを 知ったのは、実は日本経由でした。 ミシェラン 二つ星のレストランで働く とても信頼するイタリア人パティシエのお客様に このチョコレートを食べて見てほしい、と 言われたのです。 イタリアのチョコレート文化の発祥の地である モディカのチョコは、何度食べても お砂糖をそのまま食べているようで あまり得意でない印象が強く、 正直なところ避けていました。 ところが「イル・モディカーノ」は 少しテンパリングしているので、 原材料は有機カカオマスと有機甘蔗糖だけに カカオの高い品質と味わいが ダイレクトに感じられると同時に とても洗練された味わい! ちょっとびっくりしました。 アステカ文明に遡るチョコレートだけに あくまでプリミティブ=シンプル。 頻繁にチョコレートに入っている、 添加物の大豆レシチンもなし。 「ぜひ入れてほしいのだけれど」の イタリア人パティシエのお言葉に、 「紹介してくれて、ありがとう!」と お返事。 2014年?か2015年?の2月に ドイツのBIO FACHというオーガニック専門の展示会で アルベルトと初めて顔を合わせた気がします。 アルベルトはどのフェアにもひとりで ずっとブースに立ち続け、販売努力をし続けました。 彼の弛まない努力の甲斐があり、その品質が評価され、 イタリアのオーガニック専門店で一番売れている チョコレートにまで成長しました。 コロナで出張できていないこともあり、 アルベルトがいないことが、 まだ実感に ありません。 いつも顔を合わせていた展示会に行って、 あるいはモディカに会社を訪ねて、 はじめて彼の不在を実感するのかも。 シチリアの柑橘でチョコレートの フレーバーを作りたい、と提案したときも 小さな取引先である私たちの声を 「すごく良いアイデアと思う。やってみよう。」 と汲み上げてくれました。 いつも穏やかで笑顔だった彼は きっと天国でも幸せにしているに違いない。 アルベルト、どうか安らかに。
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昨晩からシチリアに来ています。今日はお天気もよく、収穫日和! 今日はザハラ を作っている"オレイフィーチョ(搾油所)グッチョーネ" のご近所で収穫しているご家族のところへお邪魔しました。 ザハラ は近隣の人のオリーブオイルも買い付けています。 このあたりは、ほとんどがトンダイブレア種。 彼らが独自で持っている畑は標高が高いため、収穫は来週からとのこと。 彼らは代々搾油所を営んでいるため、どの家族がどのクオリティで どんな仕上がりになっているか、自分たちの目ですべて把握できるのが強み。 ザハラ にふさわしいクオリティをしっかり見極めて、買い付けているのです。 早摘みのオリーブオイルはまだグリーンで実もしまっているので、 Resaレーザと言われる含油率は、ほぼ10%から11%ぐらい。 収穫年によっては、もっと低い時もあれば、13%ぐらいまで取れるときも。 500mlのオリーブオイルには、5kgほどのオリーブが要るということです。 上の写真の小さなバスケットはほぼ16kgほどのオリーブの実。 ということは、1600ml = 500mlのボトルx3本と少し、ということになります。 今年はたわわになっているオリーブの実ですが、オリーブの習性として 1年実をつけたら、1年は休憩することが多いのです。 昨年のように通常の20~40%ほどの収穫量しかなかった場合は 販売しようにも数が限られてしまいます。 自然のものですから、仕方ないのですが。 "Natura decide. (自然が決めること)"、と彼らは言います。 収穫したら、その日のうちに搾ります。収穫後、いかに早く搾るかがオリーブの 品質を決める大きなファクターです。 素晴らしい品質に出会い、生産者を辿った結果、私たちがお付き合いしている 生産者の方々はみな自社で搾油所を持っていました。順番待ちすることがなく、 確実に良いタイミングで搾れるのですから。 上の写真は到着した夜に空港から搾油所に直行し、撮りました。 毎年、オリオヌオヴォ(新油。ノヴェッロとも言います)を味わう時は 感動的です、、。 なお搾油所の仕事は、収穫後に持ち込まれるオリーブを搾って
渡してあげることです。ジュゼッペとヴィートの若い兄弟二人は 搾油所3代目。おばあさんが創立したそうですが、医師である彼らの父は 収穫時期だけ搾油所の仕事をし、その間二つ仕事を掛け持ちしていたそうです。 この時期ヴィートの睡眠時間は平均4時間。 夜中の2時までフル稼働(一時は24時間でやってた時もあるとか)、 その後きれいに掃除をしてまた朝8時にリスタート。 ただ若い彼らは、もっとコミットして搾油所をやりたいと決意。 自分たちの畑を増やし、自分たちのオリーブオイルをしっかり作りたい、と。 そこで弟のヴィートは農業学校を卒業しフルタイムで搾油所と生産者の仕事を。 兄のジュゼッペは、ミラノの大学でマーケティングを学んだ後、 著名な食品会社のマーケティング部で働いています。 その仕事が終わったあと、夜はヴィートと連絡を取りつつ、 オリーブオイルの生産者として二足の草鞋を履いているのです。 なお右上の写真は近所の方(右)とヴィート(中央)、ジュゼッペ(左)。 子どもの頃から搾油所に出入りしている二人は、みなに可愛がられています。 昨晩搾油所についたら、二人が私に手渡してくれたのが、 ザハラ の2020初搾りのオリーブオイル!しかも立派な木の箱に “20周年おめでとう!もりみとそのチームのみなさんに お祝いの気持ちを送ります!”と。じーーーーん、、、。 大切にいただきます。そして箱はずっと取っておこうと思います。 こうした関係はプライスレス。仕事はやっぱり人間関係ありき。 お付き合いの年月とともに深くなっていく信頼関係の上に、 そして良いものを届けたい、という真摯な気持ち、 お互いに共感する向上心と価値観を持っていることが ながくお付き合いをするには不可欠、そう改めて実感するこの頃です。 18年前の11月、たまたまオリーブの収穫の時期に訪れたカペッツァーナ 。
その時このテラコッタの甕に入っていたオリーブのジュースの味に 取り憑かれたようになり、食材屋のちいさな一歩が始まりました。 そんな経緯から、テラコッタの甕には 美しさに惹かれるだけでなく、個人的な想いもあります。 100年以上の古いものもあるこの伝統的な甕に 搾ったばかりのオリオ・ヌオヴォ(新オイル)が入っている様子は なんど見ても胸が高まります。 昨年、日本向けのオリーブオイルはテラコッタの甕から ステンレス製のるコンテナーに変更となりました。 真空にでき空気に触れる量が減るので、酸化しにくくなり 当然品質はさらによくなります。 かなりのコストをかけての品質に対する心意気なので、 本当にありがたいことなのですが、ちょっと複雑でもあります、、。 素晴らしい味わいに心底惚れ込んでの輸入でしたが、 それと同じほど、トスカーナのオリーブオイル文化にも 惹かれていたのだな、と。 この古い甕から注がれるロマンのようなもの、、。 それも含めて、カペッツァーナがとても好きなのだな、と。 そんな想いを巡らせている折、 カペッツァーナ の搾油所を初めて訪れたときに聞いた ボナコッシ伯爵の言葉をふと思い出しました。 “(オリーブオイルについて)伝統的な手法という言葉は、 耳にはあたりが良いけれど、舌には決して喜ぶべきことではない。 品質向上のためには、常に技術革新に取り組むべきだ。” 搾油所の機械のことばかりだと思っていましたが、 オリーブオイルに関わるすべてに当てはまっていることに いま気づいた次第です。 愛するテラコッタの甕の風景はずっと残っていてほしいですが、 数年前に亡くなったボナコッシ伯爵の言葉どおり、 新調した最先端のステンレンスコンテナーによく感謝し、 今年もお世話になろうと思います、、。 何も動かないイタリアの8月もあと数えるばかりとなり、
ミラノには人が少しずつ戻りつつあります。 暑さもひと段落し、心地よい秋らしい風(Vento Settembrino 9月っぽい風。)が吹いて、 いよいよ夏も終わり。そして、心はもうすっかり秋。 今週の月曜日からすべての生産者が休暇から戻ってきて、 メールと電話で「夏はどうだった?」の挨拶から始まり、 秋に向けて本格的に仕事が再開しました。 やっぱり一緒に働く仲間の声を聞けるのは、嬉しいものです。 そしてオリーブや葡萄をはじめとする生産物がどうなっているかを聞いて 胸をなでおろしたり、ハラハラしたり。 この秋は日本のさまざまな場所で試食会やイベントを させていただくことになっているので、今からちょっと緊張しています。 今年は初パネットーネも。やっと納得するパネットーネに出会えたので、 搾りたてオリーブオイルと一緒に初めて輸入する運びとなりました。 素材ひとつひとつにこだわりがあり、たっぷりと手間と愛情と時間をかけた、 素晴らしいパネットーネです。 パネットーネを長い間どうしても美味しいと思えず、また高い関税!のため、 クオリティに対し価格が合わないのでは?と懸念もあり、今まで紹介まで至りませんでした。 そうした考えが見事に覆った今回のパネットーネ、多くの方に楽しんでいただけたら嬉しいです。 パネットーネの予約締め切りは9月末。数が決まったら、10月中、ひたすら工房をフル回転し (といっても工房は二人だけですが)搾りたてオリーブオイルとともに11月中に日本へ出発! の予定です。予約は、9月10日ほどから。詳細もそのころ見ていただけるように準備中です。 はじめてのことは、やっぱり緊張します、、、。 昨日、有機フレッシュトマトソースやバジルペーストの生産者を南トスカーナ・マレンマを訪ねてきました。
極めて効率的にラインが組まれた製造過程をみながら、先日ピエモンテのマイクロブルーワリー「バラダン」を訪ねた際に初めて耳にした、“モダンクラフト”という言葉を思い出しました。なにかというと、人の手が優れたこと以外は、できるだけ機械化した方がよい。ただ経験からの人のノウハウ部分は、絶対に機械に譲るべきではない、とのこと。 南トスカーナの取引先とはお付き合いして10年ほどだと思いますが、今回またさらにラインの品質管理や生産が洗練されているのをみて、さすが伸びている会社は違うな、と思いました。まさにモダンクラフト。“Artigianali 職人の”という言葉がとても愛されているイタリアではありますが、たしかに機械の方が良い結果を導きだす工程はあるわけです。 日本ではここ数年で品質管理室が多くの会社に設けられ、お客様から要求される証明書や書類を用意することが多くなってきました。いまのところ、問題なく小規模な生産者も対応できていますが、すべての会社がメタルディテクターのような設備を導入できるわけではなく、この傾向が過剰に進むことがないことを祈っています。 また、すべての工程が手仕事なされる仕事は、その分どうしても割高になります。小規模な生産者は、素材にもこだわることも多いのですし、時間をかける丁寧な仕事をすることで、薬品に頼らないケースが多いですから、その分もやはりコストがかかります。素材も、大手の原材料購買力と比較になりません。そう考えると、ますます彼らの仕事の価値をしっかり発信していかなくてはならないと感じています。生産者を訪ねる旅を企画したいと考えたのも、実際に現場をぜひ見ていただきたいと思ったことがきっかけです。 今週合意となった、ヨーロッパと日本の貿易合意は輸入者としては素晴らしいニュースで、自由貿易に期待したいと思います。一方で日本での生産者の方々の状況はどうなのか心配ですが、日本の素晴らしい食材もより簡単にヨーロッパに届くことになればと願っています。アメリカなどの保護貿易の傾向が色濃くなる中、ほぼ1年というものすごいスピードで合意に達した、日欧貿易合意。市場規模は世界の貿易の30%を占めると聞きました。こうした世界規模の市場が広がれば広がるほど、Prodotti Artigianali 職人的商品(人のノウハウや伝統が活きていること、時間をかけることで良い品質を実現すること)の手仕事の価値をより語り、伝え、小さな市場が消えないようにすることが大切だと感じています。自分たちができることは、あまりにも小さく、限られていますが。 昨日訪れた製造現場のラインの横に並べられた原材料が入ったバケツの数々。イタリア産の松の実を量るのは、人の手。トマトソースの製造においては、トマトを選り分ける手はまだ健在。モダンクラフト、されど手が介在する風景に心底ホッとしたのでした。 |
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