“オリーブオイルは世界で唯一、水分がない果実のジュース”。 カペッツァーナ 農園・ボナコッシ伯爵家7人兄弟の末っ子、 農学博士であるフィリッポの言葉。 今年お呼ばれしたランチの席で、初めて聞きた言葉でした。 確かに。考えたこともなかったけれど、その通り。 オリーブオイルは単純にオリーブの果実を搾り、水分を取り除いたもの。 ではどうしてこんなに品質に差があるのでしょう? たまたま今年は良い出来だ、なんてことはありえません。 膨大な努力の積み重ねが、素晴らしい品質を生み出します。 ここでは高品質なオリーブのポイントをざっくり書いてみたいと思います。 1. 年間通してオリーブの樹を手入れすること 数年前に、イタリア南部プーリア州の南の方で、 オリーブの病気が発生し、収穫量が大きく落ちるということがありました。 私たちの大切な生産者のひとつ、同じプーリア州のラグーソ に心配して聞くと、 あんなことをしていたら病気が起きても当然だ、との返事。 定期的な剪定や、オリーブの周りの雑草のケアなどを まったくせずに放置しておかれたオリーブの樹は、すっかり弱りきっており、 そこに病気がやってきて、あっという間に負けてしまったとのこと。 年間を通してオリーブの樹々をケアしてあげる大切さ。 そのことを実感した経験でした。 トスカーナのカペッツァーナ 農園でも、毎年剪定をしている農園は 少ないということを聞きました。健康なオリーブの実をつけるには、 まずオリーブの樹の健康が第一。それにはやはり愛情をかけてあげないと。 2. オリーブミバエによる被害や、雹(ヒョウ)による傷がないこと オリーブに傷があると、そこから酸化してしまいます。 有機栽培においては、トラッポラ(罠)というペットボトルに 媚薬というかホルモン剤?を入れ、この仕掛けを樹にかけて、 オリーブミバエを防ぎます。 雹ばかりは、努力ではどうにもなりません。 これに対しては残念ながら祈るしかできません、、。 3. 収穫のタイミング:若いうちに早摘み グリーンオリーブとブラックオリーブ、同じものだとご存知でしたか? グリーンのオリーブが熟していくと、紫色を経て黒くなっていきます。 品質を重視しようとすると若いグリーン色、もしくは バイアトゥーラ(ほのかに紫色になり始めた頃)が摘みごろといわれます。 ただモライオーロ種のように若くても黒くなる品種もありますが。 若いオリーブの実は含まれる油分は少なく、 オリーブオイルの収量は少なくなります。 その代わり、フレッシュでグリーンな風味が楽しめます。 若くまだ硬く、枝にしっかりついているオリーブの実を収穫するのは 手ぐしのような簡単な道具で枝を梳いていきます。 最近は、パタパタと電動で動くホウキのような道具もでてきましたが、 いまだに手ぐしの方を多く見かけます。 オリーブの実が熟してくれば、オリーブの含有量も多くなります。 品質より量を求めれば、できるだけ熟させて、オリーブの油分が 増えるのを待った方が目的に合うわけです。 そうなると収穫も枝を揺らして落とすような手法が用いられることも。 大きなオリーブの樹の幹をブルドーザーのような車でガシッと挟み 振動させるとドサドサッと実が落ちます。 ただオリーブの樹がかわいそうで、見ていて胸が痛みました。 こうしたやり方でやっていると、私がお付き合いしているような 丁寧に手ぐしでやっているような農家さんたちは“ホビー(趣味)” のようなものに映るらしいです、、。 以前、そう言って笑われたことがあります、、。 4.収穫に使う、小さなバスケット 写真の右上に写っているような小さなバスケットを用いていることも 大切なポイントです。大きなバスケットを使うと下の方が潰れてしまいます。 5.できるだけ早いタイミングで搾油 美味しい!と思うオリーブオイル農家さんを訪ねてみると 自社に搾油所を持っていることがほとんど。 どうして搾油所があることが大切かというと、 収穫したオリーブの実をその日のうちに搾れるからです。 オリーブの実は枝から外れた時から酸化がゆっくり始まります。 あるいは地面に触れたタイミングから、とも言われます。 収穫してから、できるだけ早いタイミングで搾った方が酸化が少なく 品質が高くなります。 搾油所はコミュニティサービス的な色合いもあり、 近所の人々も自分のオリーブを持ち込み、 規定の料金を支払って搾ってもらいます。 収穫まっさかりの搾油所には、たくさんの人が収穫した オリーブの実を持ち込みますが、搾油はあくまで予約して 順番待ち。すぐ搾ってくれる保証はありません。 自社で搾油所を持っている場合、大抵は朝から午後にかけて こうした第三者のオリーブを搾り、夕方や夜などに 自社収穫のオリーブを搾ることが多いようです。 自社の分は、その日収穫したオリーブをその日のうちに搾る。 これは品質実現の、とても大きなポイントです。 6. 最新のテクノロジー:搾油機 18年前に初めてカペッツァーナ の搾りたてオリーブオイルに 出会った際、まだお元気だったボナコッシ伯爵が私におっしゃった言葉。 “伝統的(トラディショナーレ)という言葉は耳にはいいが、 舌にはよくない” その時から、最新のテクノロジーを備えた搾油機で いかに酸化させずにオリーブを搾ることが大切かを教えてくださいました。 オリーブの実をペーストにする際24度以上にならないように、 そしてできるだけその工程で酸化しないように。 こうした搾油の機械は大きな投資ですが、やはり大きな違いをもたらします。 7. 行き届いた掃除で搾油機、搾油所を清潔に保つこと これもボナコッシ伯爵が教えてくださったこと。 どれだけ掃除が大切かわかっている人は少ない、と。 毎晩きれいに掃除することは、品質の上で基本中の基本。 機械のどこかに酸化したオリーブのカスがついていたりしたら、大変です。 また搾油所自体も清潔であることは、品質への姿勢の現れ。 新しい生産者さんと出会った時、おつきあいが始まる前に 必ずチェックする大切なポイントでもあります。 簡単なようですが、夜中の2時まで搾油したあと 掃除を徹底するのは相当な姿勢と努力。 生産者のみなさんを尊敬しています。 8. ステンレスのコンテナーで真空状態で保存 カペッツァーナ の100年以上の歴史を保つテラコッタの甕(かめ)に 個人的には大変思い入れがありますが、数年前から日本出発分は この甕でのデキャンティングでなく、ステンレスコンテナー保存に 移行しました。 ここにオリーブオイルを入れたらステンレスコンテナーと蓋と オリーブの表面の間に真空状態を作り、酸化を防ぎます。 搾ったあと、どのように保管するかも大切な要素のひとつです。 9. 温度管理したコンテナーで海を渡ります 初めてオリーブオイルを輸入することになった時から、船の輸送は ワインと同様、温度管理したリーファーコンテナーで輸入しています。 通常のコンテナーに比べ何倍もコストがかかりますが、 細心の注意、数々の努力で生産者さんが上質に仕上げたオリーブオイル。 輸送で品質を劣化させるわけにはいきません。 赤道直下で数日間50度以上の熱などに晒されてしまったら、 生産者さんの努力が水の泡です。 はじめは“本当にオリーブオイルをリーファーで入れるんですか!?”と 伝える度に驚かれましたが、いまはオリーブオイル文化も多少は浸透し、 理解してもらえるようになりました。 ** ここまで長くなってしましましたが、ざっくりポイントを書いてみました。 ただまず最初に基本としてとても大切だと思うことは、 オリーブの樹と土地の相性です。 カペッツァーナ の土地ではエトルリア人が2600年ほど前に オリーブオイルを保存していたことが発掘された甕から分かったそうです。 ほとんど自生に近い、オリーブの樹々。 トスカーナは定期的にやってくる冷気でオリーブが被害をうけ 南イタリアでよくみかける、何百年という立派な樹齢のオリーブは 見かけませんが、その歴史の古さから、オリーブ栽培に適している土地です。 シチリアのザハラの農園には、200年とも思えるような樹齢のオリーブも あり、この地も自生していたに近い状況でしょう。 イタリアのオリーブオイル生産量の50%もを占めるプーリア州は 1000年を超えるともいわれる樹齢が古いものも多く、 土地と古来品種の相性の良さは、いうまでもありません。 大自然の営みから授かったもの。 この点がまず品質の出発点であると思うのです。 長い文章に、最後までお付き合いありがとうございました!
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