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(写真はスローフード協会より)
“ユートピアの種を蒔く人は、現実を刈り取る" スローフード運動創始者、食科学大学学長 カルロ・ペトリーニ スローフード運動、母校である食科学大学の産みの親であり、学長であるカルロ・ペトリーニの訃報に接して4日が経つ。ショックを受けるとともに、私自身、彼にどれだけ影響を受けたかを考えずにいられなくなった。様々なSNSで彼の功績や想い出が語られるのを見ながら考えるうちに、カルリン(カルロ・ペトリーニの相性)以上に私の人生を変えた人はいないのではないか、という事実に気づいた。 94年のパリ留学中にイタリアにおけるスローフード運動の記事を読んで、農作物および食文化の多様性を守る大切さ、環境を守ることなどの彼の言葉に感動してすぐに会員になったのだが、2ヶ月に1度私のアパートに送られてくる会員用冊子に衝撃を受けた。厚めの冊子で、マットで上質な紙に美しい写真とイタリア語と英語がエレガントにレイアウトされている。こんなセンスの良いコミュニケーション方法があるのだ、と想像していなかったクオリティの高さに心底驚いた。その冊子にはイタリアだけでなく、世界のさまざまな場所で、その土地と文化を守る個人やグループのストーリーが語られていた。 日本に戻ってきてしばらくして、その冊子が届くなくなってしまった。日本のスローフード支部ができたので、あなたはこれからそちらの会員になってください、と。日本にスローフードができたのは嬉しいことだったが、その雑誌が受け取れなくなったのが残念でたまらなかった。 2年に一度の"Salone del Gusto 味の見本市"がスタートし、2004年から毎回トリノまで足を運び、カルリンの思想がさまざまな形でたくさんの人々を動かしながら発展していくのを肌に感じた。 その後、カルリンは食科学大学University of Gastronomic Sciences を設立する。食文化を学術としてしっかりと認知させ、確立し、そして知識を得た学生たちが世界に旅立っていくことで、より良き世界の実現に貢献するために。 大学の設立にあたっては荒れ果てていたポレンツォの地を復興し、世界中からこのブラの郊外の地に何十ヵ国からの生徒が集まるようになった。そのヴィジョンのすごさ。ヴィジョナリーというのは、まさにカルリンのような人のことだと思う。その食科学大学に修士課程が設立され、Master of Italian Gastronomy and Tourismに1年間2009年に学ぶ。その留学は、私がイタリアに日本から拠点を移したきっかけとなり、そこでの学びがどれだけ今の仕事にも、人生においても糧になっているかわからない。 学生の時もカルリンの話を直接聞く機会が何度もあった。印象としては、良い意味で普通の人で、凛としながらもニコニコしていて、本物というのはこういう方なんだろうな、と思った。 客員教授としてWorld Food Cultureのマスターに年に1~2度教えに行くようになって12年ほど経つのだが、なぜ毎回私が年に数回のこの機会が楽しみなのか、今回の悲報に触れて気づいた。食科学大学は、カルリンの思想に深く共鳴した人が集まっている、コミュニティだからなのだ。同じ価値観を分かち合う仲間が集う場所。その古巣に戻る安心感たるや。またスローフードの価値観に根差したアカデミックな刺激たるや。そして世界中からやってくる、今後の食の世界を担う若い学生たちに、私は自国の食文化を伝えている。 こうした交流は、すべてカルロ・ペトリーニのビジョンと実現があってのことだ。 5月21日のカルリンの逝去以降、食科学大学が公式にアップしている言葉を読んだ。 Carlo Petrini dedicated his life to building a food system that is good, clean, and fair for all. From the streets of Bra, Piedmont, he inspired a global movement that united farmers, chefs, academics, and citizens around a shared vision of sustainable gastronomy and biodiversity. His legacy lives on in every student, every community, and every table touched by his ideas. ( by University of Gastronomic Sciences) カルロ・ペトリーニはすべての人に美味しく、クリーンで、公正なフードシステムを作りあげることに人生捧げました。ピエモンテ州ブラの街から、持続可能な食文化と生物多様性という共通の理念のもとに、農家、シェフ、研究者、市民を結びつける世界的なムーブメントを生み出しました。彼の遺産(レガシー)は、彼の思想に触れたすべての学生、地域社会、そして食卓の中に今も息づいています。 *** 私の仕事は、今も経済効率性とはかけ離れた、手間と時間をかけることでできあがる素晴らしい品質の食材を知ってもらい、お届けすることだ。こうした小規模の生産者の方々にとって、スローフード運動を産み、彼らの尊い仕事に光をあてたカルリンの存在は、どれだけ大きな支えになってきただろうか。想像に難くない。 農業の分野に限らず、イタリアというヒューマンな国、もともと国民の半分は農民だった国の、大切な価値観をスローフードは世界に発信してきた。そしてこれからも発信していくだろう。 カルリン、本当にありがとう。 Buon Viaggio, Carlin!
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